みなさんこんにちは。前回に引き続きアダム・グラントさんの「THINK AGAIN」の解説をやっていきたいと思います。今回は「学び、再考し続ける組織を創造する方法」について、解説します。前回、前々回の記事を読んでいない方は、こちらから読んでいただけると、より理解が深まるかと思います。
目次
アクティブ・ラーニングの効果
皆さん、何かを学ぶときに教えるのがうまい人から学ぶと、なんだかよくわかった気になったりしませんか?例えば、予備校生だと人気講師だったり、大人になってからだと、講習会を受ける時に有名な講師を選んだりしてしまいますよね?実は本当に何かを学んで身につけたいときは、この方法はあんまり効果がないんです。ある研究によると、より多くの知識やスキルを身に着けたのは「アクティブ・ラーニング」だったそうです。
アクティブ・ラーニングとは
アクティブ・ラーニングは、学習者の主体性を重視し、積極的な参加を促すことで、深い理解や持続的な学習を促進します。要するに、学校の授業のように、受け身ではなく、発表やディスカッションとかを行うといいってことです。以下に、一般的に言われている、アクティブ・ラーニングの例を示しておきます。
- 議論やディスカッション:学習者同士が情報を共有し、考えを交換することで深い理解を促進します。
- 問題解決:実際の問題やケーススタディを用いて、学習者が知識を適用し、解決策を模索することを奨励します。
- プロジェクトベースの学習:実際のプロジェクトやタスクを通じて、実践的な知識やスキルを身につける方法です。
- リフレクション:学習した内容や経験を振り返り、自分自身の学びや理解を深めるプロセス。
- 実践や実験:理論的な知識を実際のシチュエーションや実験で試すことで、知識の適用力を高めます。
- フィードバックの受け取り:他の学習者や教師からのフィードバックを受け入れ、それを元に自分の理解やスキルを改善する。
- 人に教える:学んだことを人に教えることで、より自分の理解が深まります。
講義形式とアクティブ・ラーニング形式について、STEM(科学、技術、工学、数学)を専攻する4万6千人以上を対象にした225の研究を比較したあるメタ分析によると、講義形式の学生はアクティブ・ラーニングで学んだ学生よりも半評点分(AとAマイナスとか)成績が低かったそうです。アクティブ・ラーニングをやってみるとわかると思いますが、考えることが多いので、結構疲れるんですよね。でも、深い理解へと導いてくれます。
「知識の詰め込み」だけではダメ
例えば、学生たちが夢中になるような講義があったとします。でも、思うほど学力の向上に繋がらないそうです。それはなぜか?「多くの講義は対話や反論を促すように設計されていないから」だそうです。学校教育の全てが知識を詰め込むだけで、「なぜですか?」とか「本当にそうなんですか?」といったディスカッションする機会が全く無かったら、人生でとても大事な「再考する力」は全く育たなくなってしまいます。これに付随した話で、なぜ「成績優秀者」は社会で必ずしも成功しないのか?ということを感じたことはないでしょうか?会社の中で、高学歴の人(例えば、東大や京大出身者)は一定数いると思いますが、自分の実体験として、必ずしもみんな優秀なわけじゃないということを感じています。また、有名な起業家で成功している人とかも、必ずしも高学歴ではないですよね。これは、なぜなのか?一つの答えとして、高学歴の人には求めるハードルが高いっていうこともあるとは思います。でも、いろんな業界の調査で、学校の成績はキャリアの成功を予測する判断材料にならないことが明らかになっているそうです。学校で優秀な成績を収めるには、大体は古い思考法をいかにマスターするかってことが重要になります。一方で素晴らしいキャリアを築くには、常に新しい考え方をすることが不可欠になります。こういう理由で必ずしも高学歴の人が素晴らしいキャリアを築いているわけではないということが言えるのではないでしょうか?
試行錯誤することの大切さ
仕事をやっていると、どっちを選んでも一長一短とか、よくわからない現象とかに出会うことが多くありませんか?こういった曖昧さや混乱に対して、探究心と好奇心をもって対応できることは、心の柔軟性を見る指標の一つだそうです。混乱っていうのは、探求すべき新しい領域がある、もしくは解き明かすべき新しいパズルがあるという合図です。こういった曖昧さや混乱に対して、対応できる組織を育てていきたいですよね。そのためには、試行錯誤して「新しいなにか」を創造・発見する喜びを組織に紹介する必要があります。そのために、我々管理者(リーダー)ができることってなんでしょうか?部下を講習会に行かせることだけで、満足していませんか?知識っていうのはとても大切なものですが、知識を頭の中に詰め込むだけが、部下・組織を教育することではありません。一節によると、
- 良い教育者とは、新たな思想・見解を教えてくれる人
- 偉大な教育者とは、新しい考え方を教えてくれる人
だそうです。これを踏まえると、「知識を学ぶだけでなく、アクティブ・ラーニングで、知識を実践的なものに落とし込む」という環境を作っていくことが大切なのかなと思います。
学ぶ組織を築く
では、学んでいく組織を作って行くにはどうすればいいか?そのキーワードは「心理的安全性の確立」と「説明責任」になってくると著者は言っています。
心理的安全性を確立する
心理的安全性の高いチームと心理的安全性が低いチームのミスの数を比較した研究によると、心理的安全性が高いチームの方がミスの報告が多かったそうです。ただし、ミスの頻度は心理的安全性の高いチームのほうが少なかったそうです。どういうことかと言うと、心理的安全性の高いチームはきちんとミスを報告するので、ミスの報告が多くなるが、ミス自体は少ない、心理的安全性が低いチームはミスの頻度は多いけど、報告が少ないということらしいです。なんだか、この理由はわかる気がしませんか?では、心理的安全性が高い環境を作るにはどうすればいいのか?心的安全性を作るということは
- 規制を緩和することではない
- リラックスした環境を作ることでもない
- 愛想よく何にでも同調することでもない
- 部下をべた褒めすることでもない
- 人が互いを尊敬・信頼し、オープンで要られる環境を作ること
ちなみに、以前はやった成果主義は、成果に最も重点が置かれるため、心理的安全性が欠如することが多いそうです。まぁ、そうですよね。私も、この言葉が出てきた時、とても違和感があったことを覚えています。では、どうすれば、人が互いを尊敬・信頼し、オープンで要られる環境を作ることができるのか?これはゲイツ財団での「心理的安全性」について行われた実験が参考になります。
その実験によると、リーダーに部下からのフィードバックを求めるかわりに、部下からの建設的な批判から学び得たこと、リーダーの自己改善の努力について、率直に話してもらったそうです。その結果、リーダーたち自身は自分たちが完璧でないと認めることで、批判を受け入れる寛容さや、新たなフィードバックを歓迎する姿勢を示したそうです。また、誰にでも欠点や弱さがある、これを当たり前だと思える環境を作ったことで、チームのメンバーたちも自分たちの奮闘に関してオープンに話せるチームが作られていったそうです。大切なのは「自分の有能さを誇示するよりも、自分を改善しようとする意欲や向上心」ということですね。
一方で、「説明責任を果たすこと」も大切です。ここでいう説明責任は自分が権限をもっている職務について説明する義務です。要するにきちんと仕事をして、上司に説明することですね。心理的安全性と説明責任の2つが共存していないと
- 心理的安全性があっても説明責任がない場合、人はコンフォートゾーン(ストレスや不安のない状態、安全地帯)に留まりがちになる
- 説明責任があっても心理的安全性がない場合、人は不安ゾーンの中で口を閉ざしたままになりやすい
組織に学びの文化を築いていくには
- リーダー自らオープンに自分が完璧でないと認め、学び続ける姿勢を示す。
- 人が互いを尊敬・信頼し、オープンでいられる環境を作る
- 組織にアクティブ・ラーニングを求める
- 部下に説明責任を求める
- 職場におけるベスト・プラクティス(最適だと思われる方法、一番効率的な方法)とは何かと再考するよう人々を導いていく
情熱的に生き、「意義ある人生」を送るために
人は興味があるからといって、必ずしも努力を重ねたり、スキルを磨いたりするとは限らない。むしろその逆で、興味があとから付いてくることもよくあることです。なので、いろんなことを学んだり、何かの問題に取り組んでいくうちに、情熱を育むことができるようになります。そうするうちに、仕事のために必要なスキルを磨き、有意義だと思える人生を送るようになっていくそうです。つまり、まずはやってみることが大切!情熱はあとから付いてくるということでしょうか。そして、自分のキャリアにおける自尊感情の変化も知っておくことが大切です。
- 自分は重要ではない
- 自分は重要だ
- 何か重要なことに貢献したい
①→③のように感情が変化していくそうです。そして、③に早く達する人ほど自分に満足し、幸せを感じるようになるそうです。幸福はゴールというよりむしろ、熟達と意義から副産物的に得られるものということができますね。職場でも人生でも、今後1〜2年で何を学びたいのか、何に貢献したいのかを考えることが重要です。そして、次の可能性のために心を開いておくことが、私達にできる最良の取り組みになります。
私達のアイデンティティも人生も開放システムです。目標とか、どんな人物になりたいかなんて変わっていくものです。古い考えに縛られる必要はありません。自分の選択肢や可能性について再考するための最もシンプルな方法は
- 日々の行動を疑問視し、見直すこと
- 過去の決意や覚悟を見直し、改めるには謙虚さが必要
- 現在の決断に対する懐疑心、そして将来を思い描き直す好奇心
つまり、「科学者のようなマインド」をもって、自分の選択や見解を見直すことがとても大事ということですね。再考することは、私達の思考を自由にして、より満ち足りた人生を送るツールになりうるものということですね。