運動中、スマートウォッチに表示される「最大心拍数 ○○」。その数字を目安に、頑張りすぎないように、あるいはもう少し追い込もうと、ペースを調整している方も多いと思います。

でも、ふと思いませんか。「この数字、本当に自分に合っているのだろうか」と。実はその最大心拍数、多くは「220−年齢」という式から計算されています。そしてこの式、科学的な裏付けが意外と薄いのです。とはいえ、いきなり「全部間違い」と言われても、では何を信じればいいのか不安になりますよね。

筆者は元化粧品原料開発技術者で、「その数字は本当に論文で確かめられているのか」を一次情報まで遡って確認する仕事をしてきました。そして私自身、2026年5月から心拍を意識して運動を続けている、当事者でもあります。

この記事では、「220−年齢」の限界、より正確なTanaka式、5つの心拍ゾーン、そして自分仕様に補正する方法を、データの限界まで含めて正直に解説します。読み終わる頃には、数字に振り回されず「自分にとってちょうどいい強度」を見つけられるはずです。先に結論をお伝えします。どの計算式も、あくまで出発点。式+心拍計+体感の3つを組み合わせて補正するのが、いちばん現実的な正解です。

結論:心拍数の「正しい出し方」は3ステップ

心拍数の「正しい出し方」は3ステップ

細かい根拠はこのあと見ていきますが、忙しい方のために要点を先にまとめます。

  • 「220−年齢」は手軽だが個人差が大きく(±10〜15拍)、あなた個人の正確な値ではない
  • より当てはまりが良いのはTanaka式(208 − 0.7×年齢)。ただしこれも「目安」
  • 運動強度は「最大心拍の何%か」を5つのゾーンで考える。脳・健康の土台はおおむねゾーン2〜3
  • 最終的には式で当たりをつけ→心拍計で測り→体感で補正する。数字を鵜呑みにしない

「また数字の話か」と身構えた方こそ、読んでみてください。難しい計算は最小限にして、今日から使える形でお伝えします。

なぜ「220−年齢」は当てにならないのか

なぜ「220−年齢」は当てにならないのか

まず、いちばん広く使われている「220−年齢」から見ていきます。45歳なら175拍、というあれです。

意外に思われるかもしれませんが、この式は、最大心拍数を正確に求めるために専用に研究されたものではありません。もとは1971年に、過去のデータへおおまかな直線を当てた近似が広まったもの、と指摘されています。手軽さゆえに定着しましたが、根拠は思ったほど強くないのです。

そして最大の弱点が、個人差の大きさです。同じ年齢でも、実際の最大心拍数は±10〜15拍ほどばらつきます。つまり45歳でも、本当の最大心拍が165拍の人もいれば185拍の人もいる。「220−年齢」は集団の平均にはそこそこ使えても、あなた一人の正確な数字としては当てにしすぎないほうがいいのです。

これは意外と実害につながります。たとえば同じ45歳の二人が、どちらも「175拍まで」を目安に走ったとします。本当の最大心拍が185拍の人には”ほどよい有酸素”でも、165拍が限界の人には”オーバーペースで追い込みすぎ”。同じ数字でも、体にとっての意味はまるで違うのです。だからこそ、式の数字だけを信じるのは避けたほうがいい、というわけです。

「では、この式は完全に無意味なの?」と思われたかもしれません。そんなことはありません。ざっくりした出発点としては十分使えます。問題は、表示された数字を「自分の正確な限界」と思い込んでしまうこと。そこだけ気をつければいいのです。

より正確な式:Tanaka式(208 − 0.7 × 年齢)

より正確な式:Tanaka式(208 − 0.7 × 年齢)

では、もう少し当てはまりの良い式はないのか。あります。Tanaka式(208 − 0.7 × 年齢)です。

この式は、約1万9千人分のデータをまとめた大規模な解析から導かれ、さらに別の514人で実際に測って検証されています。「220−年齢」が若い人では高めに、中高年では低めに(過小評価に)出やすいのに対し、Tanaka式のほうが集団全体に当てはまりやすい、と報告されています。

年齢ごとに比べると、こうなります。

年齢220−年齢Tanaka式(208−0.7×年齢)
40歳180約180
50歳170約173
60歳160約166

40代のうちは、両者の差はごくわずかです。差がはっきり開くのは、むしろ50代以降。ここで大事な点を正直にお伝えします。Tanaka式に乗り換えても、それで「あなたの正確な最大心拍」が分かるわけではありません。この式にも、なお約10拍ほどの個人差が残ります。どの式も、あくまで出発点なのです。だからこそ、次に説明する「補正」が本題になります。

5つの心拍ゾーンとは——脳・健康に効くのはどこか

5つの心拍ゾーンとは——脳・健康に効くのはどこか

自分の最大心拍数(の目安)が分かったら、次は「その何%で運動するか」です。これを5段階に分けたものが、心拍ゾーンです。

ゾーン最大心拍の%体感の目安
ゾーン150〜60%とても楽
(ウォームアップ・回復)
ゾーン260〜70%楽〜やや楽
(会話しやすい)
ゾーン370〜80%ややきつい
(会話はできるが歌えない)
ゾーン480〜90%きつい
(会話が途切れる)
ゾーン590〜100%限界に近い
(短時間のみ)

区切りの数字は流派によって多少違いますが、大枠はこのイメージで十分です。

では、脳や健康の土台づくりに効くのはどのゾーンか。答えはおおむねゾーン2〜3。前回の記事でお伝えした「会話はできるが歌えない」強度が、ちょうどこのあたりに当たります。

「じゃあゾーン4〜5まで追い込んだほうが効くのでは?」と思われたかもしれません。目的次第です。脳の土台づくりが狙いなら、限界まで追い込む必要はありません。むしろ追い込みすぎると逆効果になりうる点は、心肺持久力(VO2max)と脳の関係を解説した記事で詳しく触れています。

自分仕様に補正する——式+心拍計+体感の「トリプル」

自分仕様に補正する——式+心拍計+体感の「トリプル」

ここが本題です。式の数字は出発点にすぎません。そこに2つの要素を足して、自分仕様に補正していきます。

基本の3ステップ

  • ① 式で当たりをつける:Tanaka式で、おおよその最大心拍とゾーンの目安を出す
  • ② 心拍計で測る:運動中に実際の心拍を見る。スマートウォッチが自動表示する「最大心拍」は推定値(多くは220−年齢系)なので、鵜呑みにしない
  • ③ 体感で補正する:「会話はできるが歌えない」体感と照らし合わせ、自分にとってのゾーン2〜3を確定する

この3つがそろうと、数字と体感のズレに気づけます。たとえば「式ではゾーン3のはずなのに、まだ余裕で歌える」なら、あなたの本当の最大心拍は式より高いのかもしれません。

もう一歩、個人化したいなら:カルボーネン法

さらに自分に合わせたい方には、カルボーネン法という方法があります。安静時の心拍数を計算に入れるぶん、%だけで決めるより個人にフィットしやすく、米国スポーツ医学会も運動の目安づくりに採り入れています。

計算式はこうです。目標心拍 =(最大心拍 − 安静時心拍)× 強度% + 安静時心拍。たとえば最大心拍175・安静時60の人が60%で運動するなら、(175−60)×0.6+60 = 約129拍が目安になります。

安静時心拍は、朝目覚めてすぐ、起き上がる前に1分間測るのがおすすめです。運動を続けると少しずつ下がってくることが多く、それ自体が「心肺が鍛えられてきたサイン」にもなります。

私自身、心拍を意識し始めて気づいたのは、「自分が”きつい”と感じる心拍は、式の数字とけっこうズレている」ということでした。体感だけでも、式だけでもない。両方を突き合わせて初めて、自分の強度が見えてきます(スマートウォッチを使った実践記は、別途まとめる予定です)。

そもそも、心拍は何で測ればいい?

そもそも、心拍は何で測ればいい?

「心拍計と言われても、何を使えばいいの?」という疑問もありますよね。大きく分けて2種類あります。

  • 腕時計型(光学式):スマートウォッチなど、手首の血流を光で読む方式。手軽ですが、激しい動きや汗、腕の上げ下げで誤差が出やすい面があります。日常の目安には十分です。
  • 胸ベルト型:胸に巻いて心臓の電気信号を拾う方式。ひと手間かかりますが精度が高く、強度をしっかり管理したい運動に向きます。

40代で「まずは続けられるか試したい」という段階なら、すでに持っているスマートウォッチで十分です。表示される心拍の”絶対値”そのものより、同じ運動で前より楽に感じるか、運動後にどれくらいで脈が落ち着くかといった「変化」を見るほうが、続けるモチベーションにつながります。精度にこだわりたくなったら胸ベルトを足す、という順番で問題ありません(具体的な機種の使用感は、別途レビュー記事でまとめる予定です)。

まとめと、健康上の注意

まとめと、健康上の注意

最後に、要点を振り返ります。

  • 「220−年齢」は手軽な出発点。ただし個人差±10〜15拍を忘れない
  • 当てはまりが良いのはTanaka式(208−0.7×年齢)。それでも目安
  • 強度は心拍ゾーンで考える。脳・健康の土台はおおむねゾーン2〜3
  • 最終的に式+心拍計+体感で補正する。数字に振り回されない

最後に、健康上の注意です。心臓の病気や高血圧などの持病がある方、薬を飲んでいる方は注意してください。とくに血圧や不整脈の薬(β遮断薬など)は心拍が上がりにくくなるため、心拍数を目安にした強度設定がそのままでは当てはまりません。また、自分の最大心拍を実際に測るテストは強い追い込みを伴います。中高年の方や運動を再開したばかりの方は、無理をせず、不安があれば医師に相談してから行ってください。

まずは明日の朝、起きてすぐの安静時心拍を測ることから始めてみてください。そして次の運動で、心拍計の数字と自分の体感を見比べる。その小さな習慣が、あなたの運動を「なんとなく」から「自分仕様」へ変えていきます。なぜその強度が脳に効くのかは心肺持久力と脳の記事を、具体的な週メニューは脳を鍛える運動の完全ガイドをあわせてどうぞ。

参考文献