有酸素運動 vs 筋トレ、脳に効くのはどっち?最新研究が出した答え
「脳に効く運動」と聞くと、ジョギングやウォーキングなどの有酸素運動を思い浮かべる方が多いと思います。では、ジムで黙々と続けているあの筋トレは、頭にはまったく効いていないのでしょうか。せっかく汗をかくなら、体だけでなく脳にも効いてほしいですよね。
ネットを調べても、「脳には有酸素」「いや筋トレも効く」と情報が入り混じっていて、結局どちらを優先すればいいのか分かりにくい。忙しい40代にとっては、限られた時間をどちらに使うかは切実な問題です。
筆者は元化粧品原料開発技術者として、成分や効果が「本当に研究で確かめられているのか」を一次情報まで遡って確認する仕事をしてきました。この記事でも、個人の感想ではなく、複数の研究をまとめたメタ分析を中心に検証していきます。
この記事では、筋トレと有酸素それぞれの最新研究、脳の働き別の「効き分け」、そして40代の優先順位を、データの限界まで含めて正直に整理します。読み終わる頃には、自分の目的に合った運動を選びやすくなるはずです。先に結論をお伝えします。これは「どちらが上か」を競う話ではなく、「効き方が違う」という話です。そして現時点でいちばん堅実なのは、両方を組み合わせることです。
目次
結論:勝ち負けではなく「効き方が違う」

細かい根拠はこのあと見ていきますが、忙しい方のために要点を先にまとめます。
- 記憶力(覚える・思い出す)には、有酸素運動が効きやすい
- 自制心や全般的な頭の働きには、筋トレも効く(とくに続けた場合)
- 両方を組み合わせた「併用」が、いちばん堅実
- 有酸素の記憶研究は高齢層が中心。加齢の早い段階から習慣にする意義はありそう
「結論だけ言われても納得できない」と感じますよね。当然です。ここからは、なぜそう言えるのかを、研究を一つずつ見ながら確かめていきます。まずは、いちばん誤解されがちな「筋トレは脳に効くのか」から始めましょう。
そもそも「筋トレは脳に効く」のか

1回やっただけでは、記憶はあまり増えない
正直なところから書きます。「筋トレをした直後は頭が冴える」とよく言われますが、1回の筋トレで記憶力がすぐ上がる、という証拠はあまり強くありません。
たとえば2024年の研究では、筋トレの直後にBDNF(脳の神経を育てる”肥料”のようなタンパク質)が確かに増えました。ところが、その直後に行った記憶テストの成績は、運動しなかった人と比べてはっきりした差が出なかったのです。「BDNFが増える=すぐ賢くなる」とは、単純にいかないわけですね。
急性的な(その場かぎりの)筋トレと認知機能を調べたレビューでも、効果は研究によってまちまちでした。そのなかで比較的はっきり出やすかったのが、「やめておこう」と衝動を抑える力(抑制制御)です。記憶よりも、自制心のほうに効きやすい傾向が見えています。
「では、筋トレは脳には意味がないの?」と思いますよね。そう結論づけるのは早すぎます。ここで大事なのは、「1回だけ」と「続けた場合」を分けて考えることです。
でも、続けると効いてくる
筋トレを数ヶ月続けた場合の研究を見ると、話が変わってきます。高齢者を対象に筋トレの効果をまとめた2025年のメタ分析では、全般的な認知機能、ワーキングメモリ(頭の中の作業机のような、一時的に情報を保持する力)、言葉や空間の記憶が改善していました。続ければ、記憶系にもプラスが見えてくるのです。
効果が出やすかったのは、週3回・1回30〜60分・12週間以上という続け方でした。重さの目安は、中くらいの強度(最大挙上重量の50〜70%ほど、つまり「あと数回はがんばれる」「フォームが崩れない」重さ)です。
ひとつ正直にお断りしておきます。これらの研究の多くは高齢者(60歳以上)を対象にしています。40代にそっくりそのまま当てはまるかは、慎重に見る必要があります。それでも「続ければ筋トレも脳に効く」という方向性は、参考にする価値が十分にあります。
有酸素運動が「記憶に効く」とされる理由

一方の有酸素運動は、こと記憶に関しては、比較的根拠が厚い味方です。
運動と記憶の関係をまとめた解析では、運動が記憶の定着を後押しすることが示されています(効果はおおむね中程度)。とくに注目したいのがエピソード記憶——「昨日の会議で何を話したか」のような、自分の経験を思い出す力です。年齢とともに最初に衰えやすく、いちど失うと取り戻しにくいと言われてきました。
ところが有酸素運動を調べたメタ分析(対象の平均年齢は70歳ほど)では、このエピソード記憶が改善することが示されました。ただし、効果がはっきり見えたのは55〜68歳の層でした。40代に直接当てはまるかは、まだ分かっていません。それでも、加齢とともに記憶力は下がりやすいので、なるべく早い段階から運動を習慣にしておく意義はありそうです。
「もう手遅れかも」と不安になる必要はありません。必要な運動量は研究によって幅があり、「これだけやれば必ず効く」と断定できる数字はまだありません。ひとつの目安としてよく引き合いに出されるのが、WHOが健康のために勧める週150分ほどの有酸素運動です(記憶改善の最適量を保証するものではなく、現実的な目標としての目安です)。決して特別な量ではありません。なぜ有酸素が脳に効くのか、その仕組みは心肺持久力(VO2max)と脳の関係を解説した記事で詳しく掘り下げています。有酸素を「どれくらいの強さで」行うかを心拍で管理したい方は、心拍数の正しい出し方の記事が参考になります。
ちなみに、『運動脳』『脳を鍛えるには運動しかない』といった一般向けの本でも、脳を鍛える運動の主役として有酸素運動が紹介されています(こちらは研究そのものというより、読み物としての補強です)。
脳の働き別「効き分け」早見表

ここまでを、脳の働きごとに整理します。「どちらが優れているか」ではなく、「どの力にどちらが効きやすいか」で見るのがコツです。なお下の表は、主に高齢者を対象にした研究から見た「目安」で、有酸素と筋トレを比べた整理です(ヨガや太極拳などの心身運動はこの記事の比較対象外)。効果の大きさはおおむね中程度で、認知の領域ごとに測り方も違う点はご承知おきください。
| 鍛えたい脳の働き | 効きやすいのは |
|---|---|
| 記憶・思い出す力(エピソード記憶) | 有酸素運動 |
| 衝動を抑える力(自制心) | 筋トレ |
| 全般的な認知機能 | 筋トレ(続けた場合) |
| 頭の中の作業机(ワーキングメモリ) | 筋トレ・有酸素の両方 |
| 海馬・BDNF(脳の土台) | 有酸素が中心 (筋トレもBDNFは増やすが、認知改善への直結は不明) |
「有酸素のほうが全体的に上なのでは?」と感じた方もいるかもしれません。ところが、健康な高齢者で複数の運動を比べたネットワークメタ分析では、全般的な認知機能や自制心では筋トレが上位、記憶ではヨガや太極拳などの心身運動や有酸素が上位、と運動の種類ごとに得意分野が分かれました(筋トレと有酸素に絞れば、記憶は有酸素のほうが優勢です)。評価の仕方によって順位は変わり、どれかが一方的に勝っているわけではないのです。だからこそ、次の結論につながります。
結局どうする?40代が参考にしやすい答えは「併用」

ここまで読んで、「結局どっちもやれってこと?」と思いましたよね。その通りです。ただ、ただ漠然と「両方やろう」と言いたいわけではありません。併用の効果も研究で示されつつあるのです。
有酸素と筋トレを組み合わせた「複合トレーニング」を調べた2025年のメタ分析(35の試験・約5,700人。高齢者を含む幅広い成人が対象)では、全般的な認知機能に小〜中程度のプラスの関連が示されました。片方だけでなく、両方を回したほうが、脳にとっては心強いというわけです。
とはいえ、「両方やる時間なんてない」というのが本音だと思います。そこで、忙しい40代向けに優先順位をつけるなら、こうです。
- 土台は有酸素。週150分(1回30分を週5、または早歩きの通勤でも可)を目安に
- そこに中強度の筋トレを足す。健康維持なら週2回からでOK。ただし認知機能への効果が研究で見えやすかったのは週3回・1回30〜60分です
- 先ほどの複合トレーニングの解析では、介入条件の目安として合計週135分ほどが示されています(あくまで研究上の目安で、これを超えれば必ず効くという保証ではありません)。完璧を目指すより、まず始めることが大切です
筆者自身、2026年5月から運動を再開し、有酸素と筋トレの両方を続けています。正直に言えば、どちらが脳に効いているかを体感で見分けるのは難しいです(あくまで個人の感想です)。それでも、「記憶は有酸素、続ける筋トレは自制心と全体の底上げ」と役割を分けて考えると、メニューを組むときに迷いがなくなりました。具体的な週単位のメニューは、脳を鍛える運動の完全ガイドにまとめています。いつやるべきか(朝か夜か)で迷う方は、朝と夜どちらに運動すべきかを解説した記事もあわせてどうぞ。
まとめと、健康上の注意

最後に、要点を振り返ります。
- 「有酸素 vs 筋トレ」は勝ち負けではなく「効き方の違い」
- 記憶は有酸素(筋トレと比べた場合)、自制心・全般的な認知は筋トレ(とくに継続)
- いちばん堅実なのは併用。土台は有酸素、そこに週2の中強度筋トレ
- 有酸素の記憶研究は高齢層が中心。早めの習慣化に意義がありそう
健康上の注意もお伝えします。高血圧や心臓の病気など持病がある方、ふだん運動の習慣がない方は、いきなり高強度の筋トレや全力ダッシュから始めないでください。軽い有酸素やストレッチから入り、重さや強度は少しずつ上げるのが安全です。不安があれば、始める前に医師に相談しましょう。運動の効果には個人差があり、ここで紹介した研究の多くは高齢者を対象にしている点も、頭の片隅に置いておいてください。
「運動は脳だけでなく、人生の他の面にも効くのか」が気になった方は、運動と年収・頭の良さの関係を解説した記事もおもしろいはずです。まずは明日、20分の早歩きからでかまいません。続けられる組み合わせを見つけることが、脳にとっての最善の一手です。
参考文献
- Baumgartner NW, et al. “Acute Effects of High-Intensity Resistance Exercise on Recognition of Relational Memory, Lactate, and Serum and Plasma Brain-Derived Neurotrophic Factor.” J Strength Cond Res, 38(11), 1867-1878, 2024.
- Huang TY, et al. “Effects of Acute Resistance Exercise on Executive Function: A Systematic Review of the Moderating Role of Intensity and Executive Function Domain.” Sports Med Open, 8(1), 141, 2022.
- Loprinzi PD, et al. “The Temporal Effects of Acute Exercise on Episodic Memory Function: Systematic Review with Meta-Analysis.” Brain Sci, 9(4), 87, 2019.
- “Aerobic exercise improves episodic memory in late adulthood: a systematic review and meta-analysis.” Communications Medicine, 2, 2022.
- Wu J, et al. “A systematic review and meta-analysis of the effects of resistance exercise on cognitive function in older adults.” Front Psychiatry, 16, 2025.
- Zhang Y, et al. “Effects of human concurrent aerobic and resistance training on cognitive health: A systematic review with meta-analysis.” Int J Clin Health Psychol, 25(1), 2025.
- Han H, et al. “Optimal exercise interventions for enhancing cognitive function in older adults: a network meta-analysis.” Front Aging Neurosci, 2025.

